日記20230312

映画を見に行ったので映画の話です

映画『ケイコ 目を澄ませて』

映画『ケイコ 目を澄ませて』公式サイト
2022年12月16日、テアトル新宿 ほか全国ロードショー|出演:岸井ゆきの 三浦誠己 松浦慎一郎 佐藤緋美 中原ナナ 足立智充 清水優 丈太郎 安光隆太郎 渡辺真起子 中村優子 中島ひろ子 仙道敦子 / 三浦友和 監督:三宅唱 原案:小笠原恵子「負けないで!」(創出版) 脚本:三宅唱 酒井雅秋

『ケイコ 目を澄ませて』(2022)

先日も話題に出した横浜のミニシアター、シネマ・ジャック&ベティにてようやく鑑賞。映画/漫画ともにボクシングものは名作が多いけどこの作品もとても良かった。ノーメイクの佇まいが絵になる女主人公というだけでテンションが上がる。

詳しいスポーツではないのだけど、ボクシングの魅力の一つは音なのだろうか。縄跳びの音、ミットの音、床とシューズの擦れる音に聞き入りつつも、主人公にはこれが聞こえていないのだ、と並行して想像する。残酷なような、申し訳ないような、そう思うこと自体が失礼なのだろうか、と色々考えてしまう。一方で主人公の指導役である会長は視力が弱まりつつある(個人的なことだが、視力コンプレックスがあるのでこの手の描写があると胸が苦しい)。彼/彼女は何を見て何を聞いているのかと、五感を澄ませて映画を見るなかで、そもそも人は誰もが別の世界を見て聴いているのだと当たり前のことをあらためて意識する。

舞台は現代の東京、荒川。ボクシング映画であるとともにコロナ禍映画でもあって、マスクごしの会話の不便さなんかも描かれている。マスクの役割は理解しているし自分も付けているけれど、口元が見えないってやっぱり不便だ。この時代を生きた子どもって相手の目をよく見るように育ったりするのかなと思っているのだけどどうなんだろう。
警察のシーンなんかはちょっとわざとらしいかなあと思った直後に、自分がかつてそうしてきた(耳の聞こえない相手を前に普通に喋ってしまった)ことを思い出して、申し訳なくなった。
家賃を払わない弟の描写に、あわやミリオンダラー・ベイビー……と心配になったが、この弟とその彼女の存在が、リングから離れた世界として柔らかに描かれていたので安心した。

ラストシーン。拳を交わした相手とのちょっとしたコミュニケーションに救いを見出せたのだと感じて、見終えた直後は良かったなあと思っていたのだけど、実はそうじゃなくてブチ切れて闘志を取り戻したのだったら面白いかなとも帰ってから考えた。家族以外にも同僚なんかとの暖かいシーンも増えていった一方、良かれと思って連れていかれた新しいジムであのようにしてしまうあたり、少し気難しい性格でもあるんだろうし。聴覚障害に関係なく、「世界や身の回りに色々あっていらいらするなかで、この先どう生きていこうか」という普遍的な若者の葛藤を描いた映画でもある。何にせよケイコはまだこの世界で自分の居場所を見つけられたのだろうから、ヨシ!

関連する作品

『淋しいのはアンタだけじゃない』

すっかり「ツイッターで見かけるこづかい漫画の人」になってしまった吉本浩二の作品。もう名も聞かなくなった佐村河内守氏の事件を主軸に、聴覚障害を扱ったドキュメンタリー漫画。「○○物語」みたいな単発もの(単行本にあまりならない)以外にも、ドキュメンタリーというジャンルはもっと漫画界にあっても良いと思っているのだけど……。

難しかったであろう題材に挑んで、「本も売れなくて…すみません…」と申し訳なさそうにする作者のシーンが悲しく印象的だったので、こづかい万歳がヒットして良かった。タイトルの付け方とそれに触れた締め方が100点だと思っているので、昨今の漫画界のわかりやすいタイトルブームはさっさと去ってほしい。

ちなみに『こづかい万歳』も普通に漫画として面白く読んでいて、自分に縁のない家庭生活を覗き見る一方、河川敷が良いとかホームタウンを見つけることだとか、自分に近い感覚が描かれるのも楽しんでいる。こんなお金の使い方をしているようじゃあ…とわざわざ突っ込んで悦に浸っているような人間たちが地獄に落ちますように。

『僕 BOKU』

最近読んで面白かったボクシング漫画。作者の山本康人のことはあまり詳しくないのだけど、『デトロイト・メタル・シティ』の若杉公徳がアシスタントだったというのに何となく納得。若杉作品の「なんか良い感じの人がおかしい人によってかわいそうな目に合わされる」描写が好きなんだけど、この漫画だとスポーツクラブの先生とその教え子たちが出てくるあたりが良かった。

急に品の無い話をすると、男同士が殴り合っていると実質もうボーイズラブ的になってくるというのは割とよく描かれると思うんですが(ちがう?)、この漫画だと「あいつら…人になってる!!」とよくわからない形容をされていたのが面白かった。直後に作中キャラによって はあー!? とツッコミが入るところも良いし、そのツッコミの主が作中早めに脱落して解説役に回ったヤンキー崩れだというのがとてもポイント高いです。

作中最強キャラの獅子栄一とそのバックボーンの話が良かったので、もう少し見たかった。

『キッズ・リターン』

もう言わなくてもいいんじゃないかというぐらい自分の基礎になっている映画。小島新田~千鳥町を映していて、下町ともちょっと違う、街の無機質な感じが良い。

劇伴無しの『ケイコ~』とは逆に、こちらは久石サウンドの存在感がかなり大きい(もちろん音楽だけのおかげ、というわけではないが)。エンディングがあまりに有名だけどオープニングの入りも同じく良い。

動画配信サービスにまったく上がらない北野武作品だけどサウンドトラックは聞けるようだ。サントラのテーマ曲がコーラス入りの別バージョンなのだけが残念だけど、オープニングの高揚感はそのまま。

ちなみに自分は自分のことをこの映画に出てくる林だと思いながら生きています。

「見えない像を見なさい。聞こえない音を聞きなさい。」

日記って感じじゃないけど、今日はこれで終わり。じゃあね。

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